セイユーデンタルクリニック  

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歯の移植

歯が無くなって歯また時の治療オプションとして、インプラントや義歯では無く、自分自身の歯を有効利用するという方法があります。

顎の骨に埋まっている歯の根の周囲には、歯根膜という組織が有ります。

歯の根と顎の骨を繊維の束で結びつけている僅か0.2mm程度のこの組織の中には、血管が豊富で、多くの神経終末が存在し、骨と歯を形成する組織を新しいものに置き換える力が非常に強いという特徴を持っています。

この歯根膜細胞の優れた性質を利用すれば、自分自身の歯の場所を別の場所に移動して、再び機能させることが可能です。

​*豆知識* 〜歯根膜〜

歯は、生物にとってとても特殊な臓器です。

生物の体は上皮に覆われています。

通常、硬い組織は体の中に存在し、外からは見えません。

ところが、歯はその上皮を突き破り口腔という中にありますが、外に飛び出している臓器なのです。

皮膚から骨が飛び出している事を想像してみてください。

突き出した部分の皮膚は傷ついて、そのままでは治りませんよね。

でも、歯の周囲の歯茎は、汚れが付いていなければキュッと引き締まって健康な環境を保っています。

これは、歯の周囲の上皮組織が、皮膚のそれよりも高い再生能力を持っているという証拠です。

歯の周囲の組織は、頻回に新しい組織に置き換わることで、外に突き出た歯の周りを守っているのです。

​左の図は歯の断面図です。 歯根膜は、歯を顎の骨に結合させている重要な組織。

歯根膜組織が傷つけられると、その細胞の再構築、再配列が速やかになされ、約1ヶ月後には正常な組織配列を

構築させます。(その複雑なメカニズムは、コラムの欄でご紹介したいと思います。)

この特徴を活かした治療法の代表的なものが矯正治療です。

​歯の移植治療も、この歯根膜細胞の高い再生能力を利用した治療法で、歯根膜細胞が再生しそれが成熟する条件さえ整っていれば、高い治療成功率で処置ができるのです。

症  例
​初診時

患者さんは、先天的に両方の下の小臼歯が欠如していました。

​そのため、乳歯が永久歯に生え替わらず、成人になってからも乳歯を使い続けていました。

しかしながら、患者さんの年齢は50代。

乳歯も虫歯になり、その短い根で、かみ合わせの力を負担するには荷が重すぎたのでしょう。

もう今にも抜けてしまいそうな状況でした。

しかしながら! 

右の上顎にはかみ合わせに参加していない親不知があります。

この親不知をココに持ってくることが出来れば、再び自分自身の歯でかむことが出来るようになります。

移植術

歯の移植が施行されました。

右上の親不知を抜いた歯を、乳歯があった右下の場所に持ってきます。

この時、移植する歯のことを(提供側:ドナーサイト)

その歯を受け入れる側のことを(受容側:レシピエントサイト)と言います。

歯の移植術を成功させるためには、先に書きました歯根膜の優れた再生能力を上手にコントロールする事が必要になります。

その為、1日で全てを完了することはせず、人が持つ治癒能力を段階的に引き出すタイミングで、2〜3回の手術が必要になります。

以下にその順序を示します。

第1回目
受容側の準備

まず、最初にしなくてはならないことは移植した歯を受け入れる器(受容側)の準備です。

受け入れる器の条件は、大きく

①キレイである事 ②移植される歯の大きさに合っている事 の2つです。

この患者さんに対しては、まず駄目になってしまった乳歯を抜歯しました。

その後、その周りの汚れた部分を綺麗にし、将来移植される親不知のサイズに合わせて骨の形を整え、

その穴を粘膜で塞ぎました。

この段階での目的は、四方を骨に囲まれた移植歯のサイズに合った綺麗な穴の中に、血液を溜める事です。

傷を治すためには血が必要です。 

体は、この穴の中に血を集めてきて、そこに傷を治す成分を沢山運んでくれます。

それをこの段階で待つのです。その期間は約1ヶ月 

症例によっては、綺麗にする事と、移植するサイズに形を整える事を2回に分けて行う場合もありますが、

​この患者さんの場合は、それを1回で済ませることができました。

第2回目
​移 植

約1ヶ月後の受容側の状態は、『その穴を塞げ!』という体の指令で集まってきた傷を治す成分で一杯です。

その成分が沢山あるこのタイミングこそ、違う場所から来た移植歯を一緒に取り囲む千載一遇のチャンスなのです。

よって、この機に健康な歯根膜を出来るだけ多くまとった移植歯を、その血液のプールにドボンとしっかり浸けてゆきます。

しかしながら、まだ咬める状態ではありません。

​傷を治すためには、清潔で安静にすること。 体の傷も、口の中の傷も一緒です。

歯根膜組織の役割は、『歯と顎の骨を結合させる組織』です。

従って、治癒のメカニズムが正常に働けば、歯の側からも顎の骨の側からもアプローチをして自分の役割を果たすための組織になろうとします。

しかも、そのスピードは非常に速いという性質をもっています。

1ヶ月もあれば、形態的な回復はなされてしまいます。

この患者さんも、移植後約3週間で写真のような治癒反応が認められました。​

Before

After

移植術の術前と術後のレントゲン写真で、無事に歯が移動されたことが確認出来ました。

しかしながら、治療はこれで完了した訳ではありません。

この段階では、移植歯は形的に顎の骨の中に埋まりましたが、実際に機能するには、まだ不十分な状態です。

折角、ここまで体が頑張ってくれたのですから後は、きちんと咬めるようにしてあげなくては使える歯にはなりません。

歯根膜細胞はこの段階でどのようになっているのかと言うと、

複雑な再生の役割に重要な役目を果たし、『歯と顎の骨とを結合する』本来の自分自身の形を取り戻した後は、成熟に向けてその合成のスピードを緩めています。

そして、咬むという機能の中に、どういう物を口に入れたのかを微妙に判断する、とても繊細で複雑なメカニズムを獲得する組織へとなってゆくのです。