top of page

   歯科の未来予想図  

80歳で20歳代の歯を!

2021.02.28

未来の歯科医療はどうなっているのだろうか?

有限の命を持って生まれた生物に逃れられない定めがある。

それは『死』だ。

寿命を全うできたとして、必ず命は老いる。

​では、果たして『老い』は『病』なのだろうか?

 

 

 

 

粘膜を貫通して体外に存在する唯一の硬組織である『歯』 

この歯は、60億という細菌が生存する口腔という環境内に存在する。

体を突き破って突出した歯の周囲で、それを支える『歯周組織』は、ものすごく早いスピードで細胞を置き換え、人が食べることで増え続ける口腔内細菌による組織破壊のメカニズムから歯を守っている。

唾液はそれを洗い流し、歯が溶けやすい酸性環境を中和し、歯の表面の保護をする。

又、咬む力『咬合力』によって、歯並びの位置などに問題があれば、個々に加わる力学的バランスが均等で無いために、常に歯は動かされ続ける。

イメージを変えると、骨が手の甲から突き出た状態で、泥水の中で永遠と泥底の石をすくっているような行為なのだ。

映画X-MENの主人公ウルヴァリンでもない限り、人の手の貫通部は、炎症し化膿して壊死するだろう。

ところが、歯が貫通している歯肉はそうはならない。使用した後、綺麗にしておけば元通りだ。

これは歯の周囲にある歯肉の細胞の置き換わりが極端に早いからだ。

 健康な人体であれば、通常、綺麗な歯の構造を保って歯は生えてくる。

6歳前後に乳歯から永久歯に生え変わり始め、統計的には14歳前後で親知らずを除き、永久歯は生え揃う。

しかし、膨大な数の細菌に晒される過酷な環境下で、更に咬合力によって揺らされ続けられる歯は、同じ時間軸を生きている以上、老いと共に劣化する。

それに抗いたければ、歯磨きをして細菌の活動を抑制し、定期的に歯科受診をすることで口腔内メンテナンスをし、清潔な口腔内環境を保つことで、自らの持つ再生機能をフル活用する必要がある。

 更により良いとされているのは、必要であれば顎の中で磨きやすい位置と咬合力が安定する位置に歯並びを矯正し、左右均等にバランス良く咬める環境が再構築されることだ。

しかしながら、日本の社会保障制度では、これら全ての予防策を網羅出来てはいない。

『予防は病気ではないので、個人の問題で解決しなさい。』というのが、国の方針なのだ。

収入格差の問題を含め、全ての国民が永続的な快適な口腔内環境を獲得することは難しいのが現状である。

その昔、歯の健康寿命を延伸 させる目的で『8020運動』が開始された。 1989年のことだ。

現在、80歳で20本の歯を残そうというこの運動の結果、2人に1人が8020となり、目的の50%を達成した。

​素晴らしい成果ではあるが、欧米諸国に比べ日本の口腔内環境の改善はその足下にも及ばない。

スウェーデンではほぼ達成、アメリカでも2010年に達成したのに対し、日本では20~30年後に達成予定と、かなり遅れを取っている。

30.jpg

歯と歯周組織の力

​日本人の歯への関心度の低さ

スクリーンショット 2021-02-28 19.28.44.png
スクリーンショット 2021-02-28 19.26.57.png

このように日本人の歯への関心度は、残念ながら他国に比べて非常に低いのが実情だ。
上のグラフの様に、これだけ抜きん出てメンテナンスの受診率が低いと、70歳時点においての歯の残存数にも大きな差が生じてくるのも致し方が無いことのように思える。​

この現状を踏まえ、このまま未来に向かってゆく事は考えられない。

テクノロジーの世界は大きく進化の舵取りをしている中、歯科の領域も大きく変化をしてきた。

歯周病で失った顎の骨を再生し、歯の支持を修復することも出来るし、例え歯を失ったとしても入れ歯だけで無く、インプラントに代表される人工臓器を用いて咬合支持を復活させることも出来る。

自身の歯を移植させたり、更には治癒スピードを向上させる薬や、採取した血液から血漿成分を注入して再生力をアップすることも出来る。

虫歯によって歯の構造の一部を削り取られたとしても、なにも高価なパラジウム合金を使用して、隙間だらけの粗悪なマテリアルを用いて金属アレルギーなどを併発させることをせず、天然の歯を模倣した代替えマテリアルによって、ほぼ見分けがつかない程に修復し、正しく機能させることも出来る。

デジタル技術を用いることで、診断と治療技術の正確性は増し、少ない通院回数で苦痛の少ない治療を提供できる様になり、施術をする側と受ける側、双方にとってより良い環境を得られている。

 そして、そう遠くない将来、自身の細胞を用いて歯を支えている歯根膜という組織を再生させることが出来るようになるはずだ。

ウエアラブルの次のインプランタブルの世界へ発展すれば、知覚デバイスを組み込まれた歯が口の中に存在するようになるだろう。 現に、触覚、聴覚、視覚はもうその時代へと動き始めている。

2021年の現在、8020はもう既に技術的に可能なのだ。

問題は、それを供給する道幅が非常に狭いのだと痛切に感じる。

財源のある国の中で、歯科医療に費やせるだけの予算が無いのだ。

それは医療費のわずか7%、歯の健康を守れる治療ではなく、旧来の考え方に基づいた古い治療方法や材料での最低限の治療しか認められておらず、健康保険適応の治療法は、この技術進歩に全く追いついていないどころか発展途上そのものである。 

残念ながら、今のままでは我が国は、世界からどんどん取り残されてゆく道しか作ることが出来ないでいる。

しかし、ふと考えてみると、我々の医療は『老い』を『病』と捉える道を歩んでいるような気がしてくるのだ。

たかだか数十年ではあるが、臨床の場に立っていると、患者さんの意識の変化を肌で感じることが出来る。

皆、健康で若々しくいたい。 その為には歯が大切だ! と多くの患者さんは知っている。

通信デバイスの発展も手伝って、情報が駆け抜けるスピードに乗り、ここ数年程の間に恐らくその思いは広がるはずだ。

開業医が過剰な中、企業が定めた基準をクリアした一定レベル以上の歯科医師を雇い、もしくは歯科医院と提携をして、優良な医療を提供し続けられる様な保険ビジネスも盛んになるかもしれない。

医療大学を卒業した後、保険会社に勤める事がステータスのようになる世界もあるだろう。

社会保障制度も見直され、国家レベルで『口の中を治そう!』という試みも期待しないわけでは無いが、口の中の問題が今回のコロナウィルスのような事態にならない限り、困難な様な気がしている。

 

さて、​この写真の患者さんの年齢は、80歳と聞いたら多くの人は驚くだろう。

​この時代が当たり前になる時が来ると僕は思う。

未来において、歯科医療が出来ること

未来の80歳の口腔内は?

YU_06423.JPG
YU_06424.JPG

実際は、当院で矯正治療を終了した10代の子の口腔内であるが、この子が80歳を迎える頃には

8020の意味は変わっているはずだ。

80歳で20歳代の歯を!​ 

恐らく、人の願望は『老い』に打ち勝つことが出来るだろう。

未来では『老い』は『病』と呼ばれる時代となる。

だが…それは本当に正しい道なのだろうか?  

bottom of page