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続 歯の移植

症  例
​つづき
移植歯の処理
根 管 治 療

さて、移植された歯の周囲は歯根膜の再生能力によってその形を取り戻しました。その一方、移植歯の内部はどのような状態なのでしょう。

元有った場所から、違う場所に移動するためには、抜歯をしなくてはなりません。

その時、左の図のように歯の内部に栄養を送っている血管は切断されてしまします。その血管の侵入口は約0.15mm程の小さな穴です。

その為、一度切断されてしまった血管の再生までは起きにくいと考えられています。(実際は人間の体のことなので確認することが出来ないのですが…、現時点での医療技術では、その見解に乗っ取って処置をすることがより安全であると思っています。)

血液が豊富にある環境の歯根膜は再生できますが、血液供給の無い移植歯の内部の歯髄組織は壊死してしまいます。

このままでは、歯の中で死んだ組織が、体温37℃の環境下に存在することになるので、歯髄組織は腐って細菌が繁殖してしまいます。

​ですから、移植歯の周囲の環境が整ったタイミングで、歯の内部を綺麗にしなくてはなりません

移植歯の内部に新たに細菌が入り込まないように、慎重にそして速やかに、壊死してしまった(…と考えられている)歯髄組織を取り除き、その内部に再び細菌が繁殖するような空隙を作らないように、その空隙を塞ぎます。

血液供給が絶たれ、内部に交通する穴が開けられてしまった歯は、咬む力に対してもろい存在となるので、その内部に心棒を入れて補強します。

こうして、移植歯は外からも中からも細菌に対する感染を起こさせないように、約2ヶ月くらいの時間をかけて、咬む機能に対して十分適応できる組織へと成熟するまで丁寧にケアされます。

補 綴 治 療

十分時間をかけて、形を取り戻した組織は、機能できるまでに成熟しました。

このタイミングになれば、移植歯はもう新しく置き換わった自分自身の歯です。

後は形態を整え、きちんと咬めるように被せ物を装着して、歯としての機能を与えてゆきます。(補綴)

​この患者さんに対しては、移植歯の状態が非常に良く、歯の表層のエナメル質が綺麗に温存できたので、そのエナメル質を極力温存できるように、将来の被せ物が維持安定できる形に整え、型をとりました。

Before

After

出来上がった新しい歯を装着します。

これで移植歯は新しい場所で、再び咬むという機能を獲得することが出来ました。

自身の体が潜在的に持つ神秘的な治癒機能を利用した『自家歯牙移植』

治療終了までには、お時間がかかりますが​、歯を失ってしまった治療法の1つのオプションとして、条件さえ揃えばとても有効な方法であると考えられます。

デジタル埋入
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昨今、デジタル技術の進歩により、手術前により具体的に施術する場所を細部に渡り診査できるようになりました。 

この技術を使用すれば、術前に立体的なシュミレーションが行えるので、手術の安全性と確実性が向上するだけでなく、手術時間も大幅に短縮されるようになりました。

 一連の写真は、患者さんのCT写真のデーターから移植する『歯』のデーターを抽出し、3Dプリンターを利用して移植歯の模型を作り出し、コンピューターシュミレーション上で、どの方向にどの角度で受容側の窩を形成すれば良いかを検証している過程の写真です。

 

これらのデーターを元に、移植歯が確実に収まる骨の壁を形成することが出来るのです。

また、移植をする前に模型を使用してその精度を検証できるので、歯根膜を新鮮で綺麗な状態で手術を完成させたいこの移植術において、その精度は確実に上がります。

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​参考文献

1) 前田健康:口腔組織・発生学、医歯薬出版(2006)

2)前田健康:『歯根膜の感覚受容装置の形態学的基板ー特にルフィニ神経終末についてー』日本顕微鏡学会誌Vol.,No.4 227-231(2011)

3)Taylor,A.: Neurophysiology of the Jaws and Teeth, Macmilian Press,London(1990)

4)月星光博:『自家歯牙移植』クインテッセンス出版(1999)

5)下地 勲:『歯根膜による再生治療インプラントを考える前に』医歯薬出版(2009)

6)下地 勲:『歯の移植・再植』医歯薬出版(2016)

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